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立ち上る夏樹の怒りのオーラは、振り仰いで顔を見てみなくてもわかる。
隣にいるだけで、夏樹の身体が火傷しそうに熱い。
『……怖い怖い怖い……』
あずきは震え上がるが、
「……大丈夫。この人は夏樹っていうの。友だち……、なの」
それだけを何とか舌に乗せる。
でも栗下に言っているわけではなく、まるで夏樹に言い聞かせているみたいだ。
夏樹と自分のふたりの耳に、
『夏樹は友だち』
と届かせようと、必死で声を出している。
これまであずきは、どうやってこんな凶暴な男と、ずっと一緒にいたのだろう。
夏樹の腕から逃れようと、前のめりに体勢を変え、畳に両手をつく。
立つつもりだったのに、腰が抜けて立ちあがれない。
仕方なくあずきは腕を前に動かして、四つん這いのまま前に進んだ。
栗下の方へ。
人工の明かりが付いている、廊下の方へ。
すると、
「ぶっ」
目の前に、いきなり夏樹の着物の袖が突き出された。
まるであずきを網で捕らえるように、布で頭を覆われて、
「行くなよ」
夏樹の小さな声が降ってくる。
少し涙声に聞こえるのは、きっとあずきの気のせいだ。
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