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『じゃあ、なんでホスト?』
やっぱりそこに疑問が戻ってくるあずきに、
「だから目付きが悪いせいだって、本人は言うんですよ」
清さんは穏やかに笑う。
「いずれ店を出す日に、お客さまに不快な思いをさせてはいけない。ましてや夏坊は、この『妙』を継いで欲しいって、女将に熱望されていますからね」
「!」
この知る人ぞ知る高級料亭、『妙』を夏樹に!
政界財界の大物が列を組んで順番を待っているという店を、いずれ夏樹が継ぐ。
あずきが驚いていると、
「私も世話になった『妙』が大切ですから。夏坊にはウチで修行しろと言ったんですよ。でも何故か、あいつはホストクラブに勤め始めた。まあ他にも、バーテンダーみたいなこともやっているみたいですが」
確かにホストクラブは、見た目ほど華やかな仕事ではないと聞いたことがある。
客の気持ちを第一に振舞わなくてはならない。
店を訪れる客に、ただ気持ちの良い時間を提供して、それでお金をもらう。
それが、店と客のスタンス。
それは清さんから指摘を受けた夏樹が、修行の場所としてホストクラブを選んだ何よりの理由に思えて。
――ひどく納得がいった。
「あいつの考えていることはよくわかりませんが、時々こうやって味をみさせてもらう限り、腕が落ちている様子はありません。だからまあ好きにさせておくんですよ。人が歩く道は、何もひとつじゃなくていい」
「……はあ」
あずきはなんだか、深く聞き入ってしまった。
聞けば聞くほど、あすきと夏樹の世界は違うけれど、それでもそれぞれに懸命に生きている。
夏樹はホストだけれど、誰に恥じることのない生き方をしている。
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