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やがて、 「失礼します」 声がかかって、白い料理人姿の夏樹が膳を持って現れた。 今日一日で、いったい何回目の夏樹の変身だろう。 でもこれが多分、本当の夏樹に一番近い姿。 あずきの前に置かれた膳には、菊花の茶粥。 清さんが、 「ほう。ウチの鯖菊を食った後にこれかい?」 イジワルく聞く。 「本当は萩ご飯のつもりだったけど、小豆が割れたんだよ」 まだ不貞腐れたまま言う夏樹に、 「お嬢さんの名前にちなんでかい? 割れた小豆じゃ格好つかねぇな」 清さんは豪快に笑った。 この弟子にしてこの師匠ありといった感じだ。 でも、 「菊花と緑茶は身体の熱を解き、緊張を沈める効果がある。今夜はいろいろあったから、そちらのお嬢さんへの詫びだとしたら、ま、及第点かな」 「……」 茶粥も、とても美味しかった。
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