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エピローグ
お粥で身体も温まり、栗下と帰るためにタクシーを待っていると、
「あずきちゃん、ちょっといい?」
夏樹に呼び出された。
栗下は一瞬心配そうにあずきを見たけれど、あずきは、
「大丈夫」
と笑って、夏樹と一緒に廊下に出る。
そこで、
「どうも、ありがとう」
あずきが先に、深く頭を下げた。
夏樹はひどく戸惑った顔をしてあずきを見ている。
でもやがて、苦しそうに、
「俺は、謝ろうとは、思ってないよ」
ボソリと言う。
とても信じられないが、あれが夏樹の本気だということは、今はもう、あずきにもわかっている。
清さんから夏樹のことを聞いて、本当の夏樹はあまり器用なタイプではないということが良くわかった。
ただ頭の回転が早いから、要領よく見えるだけだ。
でも、夏樹の知識や経験が及ばないところまでは、そうはいかない。
例えば、女性の扱い方とか、あずきの感情とか。
百戦錬磨の妙さんとか、ホストクラブのお客さんとかは相手になるだろうが、純情可憐(!?)な普通女性のあずきの心の中までは、けして夏樹にはわからない。
だから、
「夏樹のプロポーズはお断りします」
あずきはぴしゃりと言った。
本気の申し込みなら、本気の答えでないと失礼だ。
夏樹は叱られた仔犬みたいに、シュンと耳を垂れる。
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