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先輩が僕を睨み、僕の腕を掴んで立ち上がる。
重心を崩して引き寄せられるままに先輩の腕の中に納まってしまった。
深夜の公道で、外灯と屋台の提灯が仄暗く灯る中で、頭一つ背の高い先輩のつくる陰で、もう一度テツ先輩の唇が降りて来る予感に震えた。
「ハル……」と呟く声。
それだけで、もう何もいらないと思えるほどの幸福感に包まれる。
そして、あっと言う間にお互いの唇を貪り始め、先輩の指が頬を撫で、髪の間に入り込む。
唇を甘噛みされ、強く吸われ、蠢いていた舌が口内に侵入し、僕の舌に絡まり翻弄する。
齎された快感の強さに、下腹部が切ないほどに疼いた。
どこかで、ヴ―と振動音が鳴っている。
先輩が唇を離し、はあと白い息が漏れる。
「ああ、くそっ!こんな所で何やってんだ」
腕を伸ばし、僕を遠ざけ、背中を向けた先輩がポケットからスマホを取り出し、屋台に向かいながら話始めた。
僕は深呼吸を繰り返し、張り詰めた自分を落ち着かせる。
「ああ、俺です。
すいません…………わかりました。
あ、タクシーで帰りますから大丈夫です。
屋台、このままで……はいよろしくお願いします。
明日……わかりました。
え?あ、後輩が一緒なんで、はい。じゃあお疲れさまでした」
誰と話しているのか、礼儀正しい喋り方だった。
屋台をよろしくとか聞こえたので、例の街金からの電話なのだろうか。
電話が終わったらしいので近づいて行くと、振り向いた先輩が「行くぞ」と手を掴んで歩き出した。
駅のタクシー乗り場は最終電車に乗り損ねたお客の為に、タクシーが列を作っている。
先輩に手を引かれたまま、すっと開いたドアに乗り込んだ。
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