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先輩が役者を目指しているのは聞いた。
台本があってもなんの不思議も無い。
だが、これ。
ペラペラと捲って、もう一度表紙をじっと見る。
「メガネンジャー、制作エブテレビ……」
―あのテレビの戦隊ものに出るってこと?
台本に書かれたキャスティングに目を走らす。
レンジャーの一人が今回の主人公
その主人公の友人―屋台ラーメン屋の慎士ー
荒川徹太……テツ先輩と一文字違い……
ちょっと待て、屋台のラーメン屋?
どういう理由だろう?
それに彼のセリフ、余りにも似てないか。
ここだ、ここのシーン。
屋台に主人公が現れて、問い詰める。
それに答えるセリフ、これさっき聞いた先輩の言葉、そのままだ。
親父が街金に借金していて、病気で入院、返済が滞り店がかたに取られた。
そして、父親の為に街金から屋台を借りてラーメンを作るところまで……
それにこれ、今現在、撮影中の台本だ。
は、何これ。
騙されたってこと?
あの屋台、ロケのセット?
親父さんの入院も、嘘?
何の為に?
僕を騙して先輩になんの得が?
「あぁ、それ、見つけたんだ」
帰って来た先輩が、台本が開いて置いてあるのをちらっと見て言った。
腹減った、とでも言うような、何でもなさで。
「説明…してください」
ベッドに、ドサッと腰を落とした先輩は、コンビニの袋を放り投げ、立ち上がって台本を突き出す僕を見上げた。
「説明したら、ハルを俺のものにできる?」
妖しく誘うような笑みを浮かべ、扇情的な低音で呟く先輩。
その上、乞うような視線を向けられ、僕は自分でも分かるほど真っ赤に染まって、顔を背けた。
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