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僕が先輩の苦境に背を向けるようなやつか、試したのか?
子どもみたいな憧れなら熱も冷めるだろうと?
確かに、先輩の復帰を願ってたけど……
その疑問を口にせずに呑み込んだのは、事実自分がそんなやつだったからで、だからこそ、それを疑うのだと気付いたから。
そんな子どもみたいな自分を恥じて、改めてテツ先輩への想いを強くしたのは、苦境の中でも変わらず大きな人で、手の届かない存在だった先輩が、自分のところまで降りてきた、触れることが許される、という打算からかも知れない。
自分の小ささに哀しくなる。
「テツ先輩を自分のものにしたかったのは僕の方です。
でも、いくら何でもこの嘘は酷いですよ!
ほんとに本当に、先輩がどれだけ辛かったのかと思って、胸が潰されそうで…
傷ついた先輩を癒せるかも知れないなんて思い上がってしまった。
まったく道化もいいところだ。
幻滅しただろなんて、遠ざけられているのに。
必死になって先輩を繋ぎとめようとして……」
話しているうちに怒りと悲しみがこみ上げて、涙が溢れて来て、ぐちゃぐちゃになった僕の顔を先輩が見つめる。
「悪かった。
騙したのは謝る。
ただ、ロケだと知ったらハルに逃げられると思った。
だから、台本から屋台のラーメン屋の設定を借りたんだ。
まあ、実際にはリハーサルでラーメンを作る練習をしてただけだけど……」
確かに、ロケ中だと聞いたら、先輩の言う通りだったかも知れない。
眩しくて、世界の違いに怖気づいて……
先輩が言葉を継いで説明を続けた。
「嬉しそうに俺に笑いかけるハルが見たかったし、もう一度お前とつるみたくて、掴まえようと必死だった。
ハルがずっと俺を神様みたいに祭り上げてたのも知ってるけど、サッカー選手になり損ねた俺じゃ、もうお前の視界にすら入って無いかもと不安だったんだ。
成り行き上、同情心を煽って点け込んだ形になってしまったけど、俺が気持ちを押し付けたらなし崩しになりそうだから、ハルにどうするか委ねた。
遠ざけようとした訳じゃないんだ。
俺が自信がなかっただけだ」
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