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僕のサッカー部での立ち位置は実際そんなものだった。
先輩のプレーに憧れて入部を決めたものの、体格も筋力も劣った僕は、高校のサッカー部に入る事自体無謀だったかも知れない―結局、最終的にマネージャーのような位置に落ち着いたのだが―
それでも、先輩はいつだって僕を庇ってくれた…部活の後、残って部室掃除をしていると、決まって先輩が手伝ってくれて、そんな時は二人でラーメンを食べに行ったものだけど……。
「面白い…からじゃない。
お前は分かってなかったかも知れないけど、お前をからかってたやつら、皆、その可愛い顔をおかずにしてたんだ。
俺だって、ラーメン食べて幸せそうに笑うお前の顔を独り占めしたくて誘ってたんだ」
「えっ?」
「お前が部室掃除の当番の時は、部長権限で他の部員にさっさと帰れと命令してたし。そのせいで……」
「いや、ウソですって。また担ごうとしてるんだ。
もう、僕がすぐ騙されるから。
高校の時だって、男子校だって言うのに先輩はいつも彼女が切れた事なくて……」
彼女と連れ立って歩く先輩の姿を見て傷ついた自分を嘲笑った。その痛みが今も胸の片隅に暗く淀んで残っている。
「そりゃ、ノーマルで居たかっただけだ。
ハルを弄り倒していたやつら、陰でみんな『チューしてぇ』とかほざいてやがった。
『お前らいい加減にしろ』と止めながらその実…」
まさか、そんなありえない。
ラーメンを箸で掬ったまま、その横顔を注視していると、先輩が言葉を切って振り向いた。
眼鏡をかけた先輩の整った顔が近づいてくる。
薄く形の良い唇が、驚いたままの僕の少し開いた唇に触れた。
「えっ?」
口の中いっぱいに広がった濃厚な鶏ガラスープの味に、割り込むようにビールの香りと苦みが混ざる。
唇に伝わる柔らかな感触、蠢き、吸付く刺激。
カチャッと眼鏡のぶつかる音がやけに生々しく響く。
これは現実か?……
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