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──あたしにしか見せてくれない光景のひとつだって判っているから、声をかけることさえもったいない。
(顔が見られないのがさびしい、なんて思ってないもん)
自分で自分に言い聞かせながらも、あつあつのココアに息を吹きかけ、口に含む。
しばらくなにも口にしていなかった身体にココアが少し重くて、舌の上で転がしてからゆっくりと飲み込んだ。
ふと液晶テレビに視線を戻すと、さっきの続きなのに全然頭に入らなくなっていた。
本当に楽しんで観ていたはずなのに、あたしの意識はもう頭の遥か後ろの方に引っ張られて戻ってこない。
まるでぬけがらのような身体が寒々しく冷えていくのを感じながら、自分の単純構造に呆れてしまう。
ひざかけを引き上げ、ココアのマグカップをぎゅっと持ち替えた。
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