10人が本棚に入れています
本棚に追加
「ーーーにしても倒産はないよなあ」
手近にあったカフェに入り、アイスカフェラテを飲みながら優斗は溜息を付いた。
陸と優斗は高校からずっと一緒で、会社も偶然一緒になった間柄だ。
「そんな負債あったっけかなあ、俺経理だけど全然気づかなかったわ。陸は気がついてた?」
「営業の俺がわかる訳、もっとないだろ」
「それもそうか」
陸はアイスコーヒーの入ったストローを咥えた。
今まで結構頑張ってきたのに、終わるときはこんなにもあっさりなのか。
日常はこんなにもあっさりと崩壊するのか。
久しぶりに怒りにも似た感情が腹の底からわいてくる。
「それにしたってもどうするよ?ハローワークの手続きだって会社から届かなきゃなんもできねえし、バイトでもしなきゃ家賃とかはらえねえし」
「俺に聞くなよ……」
陸は溜息と一緒に呟いた。
「お前、俺を怒らせたいの?」
優斗は語気を強めて陸を睨んだ。
「別に、俺は、何も……」
「お前、気がついてねーかもしれないけど、いっつも人に合わせて、自分持ってねえみてえなことばっか言ってよお!!なんか考えろよ!!」
陸は優斗の目を見ることができなかった。
その通りだったから。
いつも人に合わせて、楽しくーーー寂しくないようにしてきた自分に、自分の矜持なんかない。
俯いている陸に、ふ、と優斗は表情を緩めて陸に言い聞かせるように言った。
「なあ、今、俺達ってすっげえ笑える状況じゃねえ?会社行ったらいきなり倒産とかマジギャグにしかなんねえよ」
「……そうだな」
「そんなギャグみたいな状況、楽しんじまおうぜ。こんなこと滅多にねーもん」
二人は目を合わせると、プッと笑い出し、カフェに響き渡るような大きな声で笑い出した。
確かに違う一日になった。
笑いながら陸はそう思った。
終。
最初のコメントを投稿しよう!