入社式

6/25
前へ
/280ページ
次へ
 つくづく器が小さい男だ。  彼女を繋ぎ止める言葉が浮かばない。  身近に感じていた彼女。  想像できる生活圏にいた彼女。  属する場所が変わっただけで、離ればなれになってしまったと感じている。  お互い都内に就職した。住んでいる場所は変わっていない。  仕事で差をつけなけば男としてかっこつかない。地位や名誉を備えなければ、彼女の心を満たすことはできない。  無理だ。  彼女の上司や先輩が、仕事のできるいい男なら、彼女は目移りするかもしれない。  結城は不安に襲われた。  経験不足。チャンスがあっても立ち向かう勇気はない。  壇上の諏訪は流暢なスピーチで堂々としていた。  高そうなスーツ。チラッと見える腕時計。高級品だ。給料をたくさんもらっている。女の扱いに慣れている。  こんな人間が同じ会社にいた。現実を見せつけた。  意識しても始まらない。  それなのに、彼女の架空の彼氏を壇上の諏訪に重ねている。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1387人が本棚に入れています
本棚に追加