秋の遠足

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担任の先生がホーム・ルームの時間に笑顔で言った。 「さ、皆さん。 いい季節になりましたね。 そこで、皆さん待望のお待ちかねの秋の遠足ですよ! 今回は選択制になっています。 三つの遠足から、一つだけを選んで行く事になります! 自己責任となっております。 いまからプリントを配りますので、じっくりと考えてくださいね」 プリントを見た。 行先は三つ。 「自然に野生した、松茸狩りコース。 途中、ひどい悪路、危険な崖多し。 山の持ち主と道中、遭遇する可能性、大。 持ち主は重箱の隅をつつくような相当な粘着的な気質。 平身低頭な態度で接すれば、解放される見込みあり」 「自然に出来た、自然薯掘りコース。 根気が無いと掘った自然薯同様に心も折れて、すぐに投げ出す。 山の持ち主と道中、遭遇する可能性、大。 持ち主は淋しがり屋でお節介な気質。 まずいお手製メシを腹いっぱい、たいらげないと解放困難。 持ち主の配偶者の容貌、子供の箸使いを褒めれば、解放される予感あり」 「自然の恵み、舞茸狩りコース。 途中、熊、蛇、毒虫、スズメバチ、出る可能性、大。 山の持ち主と道中、遭遇する可能性、濃厚。 持ち主は非常に攻撃的で汚い言葉で恫喝される恐れあり。 持ち主が好きな古典的な演歌を熱く唄えば、解放される希望あり」 そのプリントを見て、ワナワナと怒りに震える。 去年までは、お気楽な水族館だったじゃねーか! 遠足つーのは、やっぱり楽しくなきゃ! 堅苦しい通常の授業と違って、友情を育み、淡い恋心を育てるのが 遠足だろーが! 弁当食ったり、お菓子を交換したりすんのが、それが遠足の醍醐味じゃねーの? 「先生! どれもイヤだよ、なんなのこれ? 普通のがいいよ。 学生らしい、どっかの名所とかぁ、どっかの博物館とか。 どっかのお城でもいいよ。どっかの公園とか。 いくらでもあるじゃん! こんなの遠足と呼べねーよ! 俺達の親が怒り狂うよ、こんな行先じゃあ! 去年と一緒の行先にしてよ、先生!」 「ご心配なく。 人生の縮図のような遠足となっております。 ありとあらゆる、想像力を働かせて、危険を乗り越えて頂きたいです」 「無理! 他のがいーよ!」 「はい、皆さんから、そういう意見が出ると当然予想しておりました。 今から、もう一枚プリントを配ります。 これが本当の遠足の行先です」 「超・妄想コンテスト『秋の学校で』を一日中校内で考える、これです!」
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