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「では奇怪な先輩」
「ん?」
私は、疑問を口にした。
「なぜ体育祭にこだわったんです?」
「ああ、そんなことは瑣末だが、
お前の後学のために教えといてやろう」
先輩は、半分以上残ったポッキーを、
惜しげもなく口に入れた。
首が、喉が、控えめに波を描き、
それを嚥下していく。
「体育祭は手段だ。
その対になる目的は本来、
行き場のない金に行き場を作るため、だ。
だが、私にとっては違うんだよ。
体育祭は、
大人たちを正当な理由で叩きのめすための、手段だ」
「大人が嫌いなのですか?」
「違うよ。十日。
大人くらい伸せないようじゃ、何者にもなれないからだよ」
「よくわかりません」
「ああ、もう少し時間が経てば。
十日がここに立てば、きっとわかるさ」
先輩は「そうだ」というと、手招きをした。
私は呼ばれるがまま、先輩の前に歩み寄る。
「もう少し、顔をこっち」
顔を出す。
「目を瞑る」
目を瞑る。
「口を開ける」
口を開ける。
「そのままゆっくり閉じて」
そのままゆっくり閉じて。
「落とさないように、全部咥える」
落とさないように、全部咥える。
「はい、目を開けていいよ」
なんとなくは分かったが、
口の中には、無数のポッキーが入っていた。
それは多分、先輩なりの褒賞なのだろう。ただ。
(私、チョコ苦手なんですけど)
そう目で訴えた。
「何?感激して泣きそうです?」
(感激して泣きそうです)
「良くできました」
そう言うと先輩は、箱を丸めて、
備え付けのゴミ箱に弾き入れた。
私は、口に入ったポッキーと小格闘して、
なんとか飲み込む。
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