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教室の中、長机が「コ」の字型に置かれている。
その上座。
さらにその向こう。
窓の外は、秋の空が高く続いている。
乳白色の雲は大空をゆったりと泳いでいる。
それを背景に。一人。
椅子に座り、膝と腕とを組み、
糸目をさらに細め、微笑んでいる。
「随分と遅かったね」
親しげに話しかけて来た人物に、
先輩は恭しく礼をした。
「お久しぶりです。お出て頂き光栄です。
なんとお呼びしたら良いでしょうか。
元老院様、枢機卿、All For One。
多くの通り名がありましたが、
いずれも本質を言い当てているようには感じません。
やはり私が貴方様を呼ぶには、
これが一番相応しく思います。
無礼を覚悟で呼ばせていただきます。
『先代様』と」
「相変わらず、堅苦しい娘だ。
それじゃあ虫も寄り付かないだろ」
「どこの世界にも、物好きはいるものです。
後ろにいるカカシなんかは、
こんな堅苦しいやつにも、
付いてきてくれています」
「話は聞いているよ。
十月十日君だね。
素晴は部下に恵まれたみたいだ。
昔の僕のようにね」
「恐悦至極」
「今回は生徒会長殿の手腕を拝見したく、
こうして出向かせていただいたよ」
「後輩の恥部をわざわざ見に来るなんて、
先代様も人が悪い」
「純粋に、買っているんだよ」
「ご冗談を。
先代様の目的は別のところにある。違いますか?」
「聞かせて貰おう」
「先代様は、心残りなのでは?
この会議は10年も前から一度足りとて、
纏まった事はなかった。
侃々諤々は、いつの間にか喧々囂々になり、
まとまらないままに終わる。
10年間ずっとそうだったと聞いています。」
「僕もそう聞いている。そして、そう教えた」
「それが真実なら、
去年の会議は、可能性を示すものだった。
初めて話がまとまった。
だがそれが、
小さな蟻の穴から、決壊した。
その無念を晴らすためにおいでになったのでは?」
「やっぱり、素晴は聡明だ。この僕より」
両手を上げて、続ける。
「その通りだ。
寝ても覚めても、あの情景が浮かぶ。
とらわれている、と言ってもいい。
一年前からずっと。
だから、開放して欲しいんだ、
聡明なる素晴という後輩に。
そのための努力は惜しまないよ」
「出来うる限りの努力を致します」
そう言った先輩の瞳は緊張と意志とを、おびていた。
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