ぷろろーぐ

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「艦長さん、艦長さん。」 「・・なんだ、雪風か。どうだね、調子は。」 調子がいいわけない。なんせもう半世紀近い年月を戦い続けてきたのだから。でも、そんなことはおくびにも出さない。出せばこのヒトは、このヒト達は多分この私の最期のご奉公を取りやめてしまうだろうから。 「・・うん、良いよ。とっても良い。」 「・・そう、か。ならいいんだ。」 -これは、優しい嘘。もう私が全力を発揮できないことなんてこのヒト達はきっと、いや確実に知っている。けれど、私のわがままに付き合ってくれている。 「雪風、この半世紀近くずっと俺と居てどうだった、楽しかったか?」 「・・うん。陸(おか)にも上がれたしね。楽しかった・・楽しかった、よ・・。」 -このヒトの前では涙を見せてはいけない。そう心に誓っていたはずなのに。ポロポロ、と涙がこぼれてくる。 「この戦いを無事に乗り切ったら、またラムネを飲ませてくれるか、雪風。」 「・・そんなモノ何本だって飲めるよ、私に乗っているかぎり、ね。」 「そりゃあいい。それじゃあ行こう、俺たちの戦場(いくさば)へ、な。」 時に20XX年8月15日午後11時。特務艦へと艦籍を変更していた武勲艦雪風の最期のご奉公の始まりである。作戦名は「天一号」。・・目標は沖縄周辺空域に展開する中華人民共和国空軍機。そして、彼女は帰らなかった。 ・・記録では、佐世保を出港した「雪風」はかつての坊ノ岬沖海戦をなぞるような航跡を辿った後、かつて護衛した戦艦「大和」が眠るちょうどその海域で中華人民共和国解放空軍のJ-11、そしてQ-5の飽和攻撃を受け轟沈、乗員もろとも爆沈したとされている。だが、その沈没に関しては謎が多く、日中武力衝突終結後の調査において沈没したとされる海域を中心に探索が行われたが「雪風」の艦体は今に至るまで見つかっていない。
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