罪深き愛

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 ある日曜の朝のことだった。早朝の眩しい陽射しが直接当たったせいか、休日なのに早く起きてしまった。  寝室からリビングに向かうのに、二階から一階へと階段を下りる。その向かえには、端に置いてあった真新しい姿見を使ってポーズを取っていた麻悠がいた。  今までは、主にサイドテールでしか結っていなかったのが、髪を下ろしたりポニーテール等と髪型を変えたり、しまいにはご丁寧に女の子らしくくるっと一回転して、着用していたエプロンのスカートの裾を上げる。  口角筋を指で上げるようにして笑顔の練習をする。そして、自分にとって最高の笑顔が作れたと思ったら、よし、と自分に語りかけるように照れ笑いを浮かべる。  そして、降りてきた俺のことに気づき、 「あ、今ご飯作るよ。」  と言って、すぐさま台所の位置に着き、彼女らしくない慣れたかのような手つきで料理を作り出す。  確かに彼女は可愛い。俺のために見た目を気にし、料理を作り、積極的に接してくれる麻悠はこの上なく愛らしく、この手で抱きしめたいほどだ。  もし、これが本当の麻悠だったならばの話なのだが…。しかし、残念ながらこれは麻悠ではない。  なぜならば、この麻悠は、彼女の姿を借りて乗り移っている桑田拓海に過ぎないのだから。
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