アンタレスとスノードロップ

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その昔、この大陸には4つの【季節】が存在していた。 生まれる命の象徴【春】 荒々しい炎の象徴【夏】 命の調和の象徴【秋】 凍てつく命の眠り【冬】 全てが互いに平和と調和を保っていたのは遥か昔。 古(いにしえ)の夏の王がすべての季節を飲み込んでしまい、この世界からは【季節】が失われた。 世界のどこかで【季節】の王の因子を継ぐ人間が生まれるも、夏の王の因子を受け継ぐものがそれらを飲み込み続けて数百年。 そんな壊れてしまった世界の片隅で出会った幼い二人は、寂れた書物庫でいつものようにそこに散らばる書物を読み合う。 「実りはブルーベリー、溶ける氷は花見て泣いた。  空飛ぶ魚…ねぇ、魚ってなんだろう」 「…わかんないよ。見たことがないんだもん」 「魚…さ、か、な…あ、あった!  えぇこんなにたくさんいたんだ?」 二人は顔を寄せ合い【魚】が描かれた書物を眺める。 そこには自分たちとはまったく違う生き物が描かれていた。 「…これ、食べてたんだって。」 「うぇ。おいしそうには見えない」 クスクス笑って閉じたその書物を椅子代わりにして、二人はポケットからクルミのように硬い木の実を壁にぶつけてその中身をポリポリと食べた。
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