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二人には名前がなかった。
この国には、名前を持つものはいない。
名前を持てる人間は【王】のみ。
二人はお互いに、自分とは見た目も性格も正反対の相手に興味があった。
「昔はみんな名前を持っていたんだね」
「じゃあさ、俺たちも名前を持とう。二人だけの、秘密だ」
二人は互いに名前を付け合うことにした。
一人には【サソリ】と。
もう一人には【ユキ】と。
【サソリ】の瞳は業火のように燃え炎のように揺らめいている。
破れかけた本の1ページに、空の上にいるというサソリの心臓が赤いというのを見たから。
【ユキ】は【冬】に降るという白い物。それを【雪】というと読んだことがあったから。そして【雪】の中で育つ花からそう決めた。
「サソリ、僕はこの名前を死ぬまで大事にするよ。」
「俺だって…明日会えなくなる日が来ても、きっと名前を覚えていたら会える。約束する」
この世界はいつ消えてしまうかわからない。
灼熱の炎にあぶられているように暑い昼と凍えてしまいそうなほど冷たい夜。
食べ物が育たない。こんな世界では明日自分の命がどうなるかとか分からない。
二人はそれを分かっていた。
そして、その誓いから数日後…
ユキが書物庫には現れなくなる。
サソリが何日待とうとも彼は来なかった
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