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悩んだ末、結局街に向かってみる事になり。私は終始彼の頭の上に乗ったまま、まるで人形の様に扱われた。
気恥ずかしくなり、思わず顔を背けながらも髪の毛に確りとしがみつく。
流石に人が居る街中で、こんな姿を晒したくは無い。其れに一応、知り合いだっている。
ギルドには無所属だけど、話す友達位なら一人だけ居た。けれど会う時だけ、本当に他愛も無い話をするばかりだ。
今、気付いたのだが。彼は確かギルドマスターで、結構有名らしい。
懐かしい、何故だがそう思えてしまうのは寂しかったからだろうか。
街中を歩くと、一軒の酒場に辿り着く。彼は私を頭に乗せたままに、何の躊躇いも無しに堂々とその建物内に入った。
『マスター、お帰り!』
『お疲れさん!』
酒場内は、タルに入ったワインが複数あり。木目のカウンターの奥には、初老のおじいさんが居てどうやらバーテンダーを営んでいる様だ。
未成年だから飲めない、すすめれたら絶対に断ろう。と考えていた矢先、期待を裏切らない声が耳に届く。
『嬢ちゃん、酒飲むか?』
「……いえ、私はこの姿ですし。飲めませんよね普通?」
冷たい眼差しを向けた、途端に豪快に酒を飲む男は黙る。何だか意外にもしおらしい、そう思っていると。
真下に見えた顔が、くつくつと笑い震えるのが分かる。彼が、笑いを必死に堪えていたのだ。
肩まで震えていて、自身が落とされないか心配になっていると。
「あはははっ。面白いね、君の名前は?」
「あっ、自己紹介まだだったね。私は水明!」
名を名乗る、途端に場がシーンと静まり返った。何か悪い事でも言っただろうか、眉を潜めながら周りを交互に視やる。
原因は、落下して行く私だったみたい。意気込むあまり髪の毛から手を離し、床が目の前に迫っていた。
けど、またしても受け止めてくれて。危うかったものの、何とか助かる。
感謝して、胸を撫で下ろす仕草をしていると。彼は苦笑を浮かべ、そっとカウンターの棚に並べられたグラスの縁に私を座らせる。
ここなら落ちない、幸い硝子の壁が手刷りみたいな役割を果たす。
「きゃっ、びっくりした。助けてくれて、さっきもありがと……う」
「本当、ヒヤヒヤした。落ちなくて怪我も無くて何よりだ、気を付けろよ。親指姫」
そう言われても言い返せず。何だがズルいと思いながらも、不思議と嬉しかった気がしたのは多分気のせいだ。
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