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店につくと、部長はタバコに火をつけ、店員に注文を済ませる。
ビールでいいか?と声を掛けてくれたが、注文された後で聞かれても、はいとしか言えない。
「お前、最近大丈夫か?」
持ってこられたビールをぐいっと飲み、泡を顔につけながら、ふとそんなことを聞いてきた。
「何がですか?」
いきなりの質問に私は鳩が豆鉄砲を食らった顔をしたのだろう。
部長はぷっと吹き出すと、悪い悪いと笑ってみせた。
「いや、今日お前が来た時に、ひどく疲れた顔をしていたからさ。何かあるんなら聞いといてやらないとと思ってな」
「そんなにひどい顔してましたか?」
「今すぐにでも死んでやる!って顔をしていたぞ」
「してません」
少し膨れながら、今日のことを思い返してみる。
確かに、ディスプレイに写っていた自分の顔は、今朝鏡で見た寝起きの顔よりも疲れた顔をしていたかもしれない。
でもだからってすぐに死と結びつけるのは、どうなんだろう。
「昔、俺の部下にも自殺した奴が居たんだよ。なにも変なところはなかったのに突然な…」
「あ、いえ、すいません」
「なんでお前が謝るんだ。お前がそいつの生まれ変わりなんだったら、謝れって言うかもしれないけどな。昔話だよ」
笑いながら話していたが、その姿はどこか悲しそうだ。
きっと信頼もしていただろうし、仲も良かったはずなのに。
大切な人にそういう思いをさせるのに死んでしまうなんて、やっぱり私は自殺を許すことが出来ない。
結局その日はそれだけだった。
私の愚痴を聞くというよりも、上野部長の昔話に華が咲き、私の酒癖が出なかったのはいいことだが、部長の笑い上戸が店内に響き渡る結果となった。
安心したのか、部長は私を駅まで送ると、2軒目の居酒屋へハシゴしていった。
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