過去の人身事故

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「そんなこと話してたの?」 「そうなんですよ。居酒屋に着くなり真剣な顔しちゃって」  約束通り、私は中川先輩と飲みに来ていた。 中川先輩は結婚して子供も居るのに、30代後半とは思えない容姿をしているため、未だに独身だと思って声を掛ける新入社員は後を絶たない。 容姿端麗で面倒見もいいのだから、それは当たり前なのかもしれない。 「でも、私も覚えてるなぁ。その人」 「え?先輩お知り合いだったんですか?」 そういった先輩は少し悲しそうな顔をしている。 「あたしの研修を担当してくれてた人だったの。と言っても、1ヶ月位だったけどね」 「それじゃ知り合ってすぐに」 「違うわよ。あたしがすぐに研修終わらせちゃったの。いい男だったのに、もったいなかったかもね」 「旦那さんに言いますよ」 「いいわよ言っても。あんたとは飲みにこれなくなるけどね」 「すいませんでした!」  先輩の旦那さんは、少しは名前の知れた小説家で、家にいることも多いので子供の面倒を代わりに見てくれる優しい人だ。 打ち合わせなんかでどうしても家を開けなければいけない時は、先輩に子供のことを任せるけれども、子供もすでに高校受験を控えた中学生で、あまり手のかからない事もあって、こうやって飲みに来る事ができる。
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