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「でも、意外だったなぁ」
「なにがですか?」
「自殺しちゃった人。たしか斎藤さんって言ったんだけど、すごく仕事ができる人でね。自殺なんてするような人じゃなかったのに」
すこし懐かしむように彼のことを思い出している先輩に対して、気まずくなるのを覚悟で聞いてみた。
「死因はなんだったんですか?」
「飛び込み自殺だって。なかなか出社しないのを部長が心配してた時に、ご家族から連絡があってね。本当に不思議よねぇ」
「でも何か思う所があったんじゃないですか?仕事で思いつめてたりとか」
「ううん。それはないわよ。だって結婚を控えてたんだもん」
「嘘…」
「あたしが研修してた子とだったから間違いないわよ。その子、斎藤さんが亡くなってから仕事辞めちゃったけどね」
そう言うと先輩はグラスを空にして、新しい物を注文する。
この時、なにか言いようのないゾクリとしたものを感じたが、今の空気をより悪いものにしたくなくて、私も一気にグラスを空けた。
それから何を話したかは記憶があやふやだったが、その日は先輩に元気がなかったのだけは覚えていた。
きっと、上野部長同様に思い入れのあった人だったんだろう。
気にならないというと嘘になるが、斎藤という人物を知らない私には、それ以上深入りする要素が見つからなかった。
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