葬式

4/5
前へ
/55ページ
次へ
「橘さんでしょうか?」  次に声をかけてきたのは、喪服を着た親子だった。 父親の方はメガネを掛け、憔悴の表情を浮かべている。結婚式で見た時よりかなり老けてしまっている。 子供の方は、未だに泣き止むことが出来ず、喪服の裾を目にあてがって堪えている。 そうだ、私よりもこの人たちのほうが辛いのだ。 「はい。橘です」 私のガラガラの声に少し戸惑いながらも、達央さんは私に自己紹介をする。 「夫の達央です。こっちは娘の香織です。今日は妻のためにご足労頂きまして、ありがとうございます」 「いえ。先輩にはお世話になりました」 「妻からよく聞かされました。良くしてくれる後輩だと」 「そんなこと…ありません。私のほうが先輩には迷惑をかけっぱなしで」 「今日は葬儀のこともあって、簡単にしか挨拶できませんが、電話でもお願いした通り、後日会っていただけますでしょうか?」 そういえば、あの日電話でそんなことを言っていたような気がする。 「構いませんが、どんな用事でしょうか?」 すこし怪訝な態度になってしまったが、私と先輩には、会社の関係しかない。 私よりも、話をしなければならない人が他にいるのではないだろうか。 「今はお話することが出来ませんが、妻のことでお伺いしたいことがあるのです。どうか、よろしくお願いします」 弱々しいお願いではあったが、わらにもすがるような思いで言っていることが受けて取れた。 私のことで、なにかがあったのならば、私も先輩の死に無関係ではない。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加