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葬儀が終わると、上野部長が私を迎えに来た。
何度も謝る私に、部長はいつもの様に小言を飛ばし、謝ることがなくなると、その足で私を居酒屋へと引っ張っていった。
「中川のことは残念だった」
注文を済ませ、店へ入って初めて沈黙を破ったのは、部長の言葉だった。
何度聞いたかも分からないが、部長と先輩は長い間苦楽を共にしてきた分、重みが違った。
「お前の気持ちもわかるが、そんなことじゃ中川が苦労するぞ」
月並みな言葉ではあったが、確かにその通りだった。
先輩がここまで私に良くしてくれたのも、仕事を頑張ろうという私の思いと先輩の情熱があったからこそなのだ。
「明日、会社に出てこい。お前の仕事の引き継ぎは俺がやるから、それだけ済ましたら帰ってもいい。とにかく出てこい」
「分かりました」
店を出ると、夜の繁華街は私の気持ちなど素知らぬと、一番のかきいれ時を迎えていた。
ホームで電車を待つ私に、場内アナウンスが響く。
「〇〇駅で発生した人身事故のため、電車に遅れが発生しております。今しばらくお待ち下さい」
そういえば、あの日も人身事故があったっけ。
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