人身事故

4/5
前へ
/55ページ
次へ
 自慢ではないが、私は自殺なんかは絶対にしない自信がある。 何を根拠にと言う確実な根拠があるわけではないが、履歴書の長所にだって明るいところだと書いたし、『自殺』に対しては、強い嫌悪感を抱いている。 何かの拍子に死にたいと思うことがないわけではないが、そういう時はベロベロになるまで酒を煽って寝てしまえば、次の日にはスッキリしている。 「そうだ先輩。今日、終わったらお時間ありますか?」 「また飲むの?あんた酔うとすぐに泣き出すもんだから、あたしが変な目で見られるのよ」  笑いを噛み殺しながら、私の失敗談を思い出しているのだろう。 仕事がうまくいかない時、彼氏に振られた時、買ってた熱帯魚が死んだ時、なにか悲しいことが会ったら、私はまず先輩に相談した。 その度に飲んで忘れなさいと言ったのは、なにを隠そう中川先輩のはずなのだ。 「いいじゃないですか。私だって好きで遅れてきたわけじゃないのに、上野部長ったら弛んでるとか、最近の若い奴はとか好き放題ですよ!」 「分かった分かった。今日は子供の面倒あたしが見なきゃいけないから、明日聞いてあげるわよ。だから、大声でそんなこと言うもんじゃないわよ」 先輩は、唇に人差し指をおいて「シー」のポーズを取る。 ハッとなって周りを見ると、他の社員は気まずそうな雰囲気を浮かべ、当の上野部長は冷たい視線を投げかけながら、唇の端をヒクヒクさせている。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加