第1章  忍

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第1章  忍

12年前のあの時。 分かっていたのは、この国の、この街のどこかに彼女がいるということだけ。 今、いくつになっているのか、どんな風に生きているのか。 もちろん、名前どころか、容貌だって分からない。 それでも彼には、自信があった。 ちゃんと自分の目で見れば、どんな姿をしていても、必ず彼女だと分かる。 その為に、宇宙の藻屑になる危険を覚悟で、ここまで来たのだ。 彼は、窓の向こうに広がる大都会の夜景を、ぼんやり見詰めた。 『フィンザー。私、どうしてもあの面白い星に行ってみたい。 うぅん。行くだけじゃなくて、あそこで生きてみたい』 経験を一つ、一つ、積み重ねて人生をつくる星、地球。 そこへの憧れを話す恋人の声が、脳裏に蘇る。
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