時のシグナル

7/7

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「ねぇねぇ聞いた?」 クラスメートの女子が、親しげに声をかけてくる。 別に親しくしたいわけじゃないけど、頼めば二つ返事でノートを写させてくれる私との繋がりは、彼女としては持っていたいのだろう。 いつも無愛想な私にも、よく話しかけてくる。 「え、何が?」 あまり興味がなさそうに返事をする。 実際、どうでもいいことだろうし、今日は"赤"色の日。 あまり人に関わりたくはなかった。 「佐々木先輩、ドラフトで指名されて、プロ入りが決まったって」 「え~すごいね。じゃあ、夢を叶えたんだ」 佐々木君は、野球部のエースで、今時珍しい四番。 甲子園こそ逃したけど、彼の頑張りを誰かが見ていてくれたのだろう。 私が密かに憧れる先輩が夢を叶えた事に、自分の事のように心が踊る。 「それで、夢を叶えたから、『恋愛はしない!』って自分との約束、解禁するって!」 「え?」 憧れの先輩が、自分に変なルールを設けて、彼女がいないのは知っていた。 だからこそ、ずっと憧れの存在でいてくれた。 それが、今、音を立てて崩れ去った。 「どうすんの?」 「え?」 目線を上げれば、クラスメートがイタズラな顔をしている。 「え?じゃないわよ。のぞみが佐々木先輩の事好きなのは知ってんだから! 気づいてないだろうけど、私が佐々木先輩の事を話題にすると、すごく嬉しそうな顔してるよ」 う、それ聞きたくなかった。 「倍率はうんびゃく倍。 泣く可能性のが高いだろうけど、アタックするなら、私は本気で応援するよ」 彼女の言うとおり、私なんかが、佐々木先輩の彼女になれる可能性は皆無だろう。 それに、今日は"赤"色の日。 誰かに関われば、絶対に良くないことが起こる。 ……それでも、今日でなければいけない気がする。 "今日"知ったことは、"今日"行動しないといけない気がする。 「うん、お願い」 私の消え入りそうな返事を聞いたクラスメートは、ニコリと笑ってくれた。 あぁ、願わくば、今、"赤信号"が"青信号"に、変わりますように!
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加