0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「好きです。私とお付き合いしてください」
緊張と愛情。彼女の感情の全てが、その言葉がつまっていた。もし言葉が宝石ならば、これほど綺麗な言葉はない。そしてその宝石は人を強く魅了する力も持っている。もちろん、魅力を引き出すのは、言葉だけではない。真っ直ぐな目、緊張の手、震える唇…。その全てが、輝かしい宝石だ。
だが、時としてその宝石も受け入れらないこともある。相手の言葉は簡潔だった。
「ごめん。付き合えない」
「そう」
その返答は、彼女の心の奥を傷つけていた。だが、彼女は笑顔を絶やさない。全てはこの告白を綺麗なまま、終わらせるために。
「ごめん」
そう言い残して相手の男は姿を消した。彼女はその姿を最後まで見届ける。学校の中庭で夕焼けに背を染めるその姿を眺め続けた。そして完全に彼の姿を最後まで見届けた。彼女は袖で涙をぬぐうと、ポケットから小さなストラップを取り出す。それは縁結びのストラップだ。それをジッと見つめ、握ったまま校内へ向けて歩きだした。校内に入ると、階段を上り二階の放送室へと向かう。そして放送室のノックし、中に入った。
「あ、あき先輩。…どうしたんですか!目が真っ赤ですよ!」
中に入っていた女子が心配して女の子に駆け寄ってきた。先輩と呼ばれた女の子は、後輩に心配をかけないように笑顔で返した。
「ごめん、まゆみちゃん。なんでもないの。心配しないで」
「心配しないわけがないじゃないですか!二人きりの部活の先輩と後輩ですよ!それは恋人より深く、家族より固い絆があるんです!なんでも言ってください!」
「そう言ってくれて、本当にうれしい…。うれしいんだけど。ごめん。私、部活を辞めることにした」
「なんで!」
絶望というべき表情を見せるまゆみに、あきは申し訳なさそうに笑った。
最初のコメントを投稿しよう!