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人間達が『果ての海』と呼ぶ、誰も知らない場所にその塔はあった。
塔の最上階はきらきらと陽の光に揺れる水面を眺めることができ、果てまた最深部はその光すら全く届かない暗き海の底にあるという、とても大きなものだった。
塔の外観は真珠と珊瑚と透き通った石英でできている。
それゆえ海の眷属達は、海神の住むこの塔を『水晶の塔』と呼んでいた。
青の女王は連れ帰った青年に塔の一室をあてがった。
そこは塔の丁度真ん中あたりの高さにある部屋で、四方を囲む水晶の壁からは、真っ青な海中が透けて見えた。
この塔にいる限り、青年はあの底が見えないほどの暗さに満ちた闇の中へ落ちることはない。
時の呪縛から解放された青年は、傷一つなく磨かれた水晶の壁の前に立ち、じっと海の中を見つめていた。
月影色の淡い金髪を束ねることなく瑠璃色のマントの上に流し、青ざめたその横顔は彫像のように固く微動だにしない。
体の線がはっきりとは見えない、ゆったりとした白の長衣は腰の所で細い飾り紐が結ばれている。
「気分はどうです?」
青の女王は人の姿をとって青年の部屋を訪れた。
その外見は二十に満たないうら若き乙女。
青の女王もまた、生まれてからさほど年月を重ねていない若々しい神だった。
波のようにうねる長い紺碧の髪を揺らし、淡い薄絹を幾重にも重ねて美しいひだを作った衣から素足をのぞかせて歩み寄る。
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