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「ん~、被害が出る可能性とかもあるからワクワクってのはちょっと不謹慎な気がするな……」
その答えに少しムッとした。
さすが教師、もっともらしいことをいう。
もう、話しかけないで仕事に集中することにしよう。
本当につまらない男。
いつも手入れされているキレイな指先や同年代の男子にはない笑った時の目じりの皺なんかいい線いっているのに……
「……勿体ない」
「なんか言った?」
「別に……それより先生、やることやっちゃってください」
学園祭の前日、生徒会の仕事は予定より遅れていた。メインステージの進行台本を書きながら生徒会室で彼と私、2人きりだ。
「伏見さん、夜には直撃みたいだから程々で切り上げてね」
「はい……あっ、でも、まだグラウンドでやる予定だった模擬店の場所を校内へ振り分けないと、台風が通り過ぎってくれてもグラウンドは水浸しですからね」
先生は作業の手を止めて「性格なのかね……」と頬杖をつき私を見た。
「他の生徒会役員はみんな『家が遠いから』とか言って帰ったのに……確か1番遠いのは君じゃなかったっけ?」
「……」
その呆れたような視線の中にあるやさしさがひどく後ろめたい。
『みんなのため』とか『学校のため』とかっていう大義があるわけじゃなく、ただの私欲で仕事をしているだけだ。
先生の気を惹きたくて__それに成功したというのになんの達成感もない。不純な動機を見透かされるのが怖くて「私はやりたくてやってるだけなんで」
ペンをはしらせたままぶっきらぼうに答えた。
窓から見える空は厚い雲に覆われていて、まだ下校時刻まで1時間もあるというのにうす暗いから教室の蛍光灯は今日はすべて点灯させている。
無遠慮な白い光は色気なく、冷静に教室をくっきりと照らす。
「今回の台風はかなり大型らしいよ」
「そうなんですね」
「あんまり、危機感なさそうだね……」
「はい。ないですね」
ニュースでは「5年ぶりの最高雨量」とか「10年ぶりの最大瞬間風速」とか近づいてきているときは大騒ぎするけど、大概いつも、たいしたことない。
熱帯低気圧になって台風でなくなることだってよくある。
今回もそんなもんだろう……
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