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彼女の必死な話に、私は思わず、聞き耳を立ててしまった。
「冬服と夏服。これは奇妙な事件ですね?」
「でしょう。私、困っちゃって、結局そのまま、着て帰ることにしました」
彼女はそう言って、目の前に、冬服のブラウスを出してくれた。
見るからに新しい。最近、買い換えたばかりのようだ。
「これは、あなたのじゃないのですね?」
少女は、頭を横に振る。
「私のじゃないです。だって、この日は、夏服のブラウスを着てきてましたから。それで、友達の由香里に相談したら、この事務所を紹介されたんです。何日か前に、お兄さんが、この事務所の人にお世話になったとかで、その紹介で、こちらに来たのです」
「あの、由香里さんのお兄さんというのは?」
「森健一、覚えてますか?」
私はその名前を聞いて、あの事件の事を思い出した。あの忌まわしい事件の事を。
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