久松のこと

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信俊と妻の佐治氏との間にできた幼い子たちは殺された。 そして、水野家の刈屋城同様、阿古居城は佐久間のものとなった。 つまり、久松家は本貫地であった阿古居城を、佐久間に奪われたわけである。 これでは俊勝が佐久間は勿論、織田家を恨んでも当然だ。さらには水野信元の件では、その織田家と結託していた家康をも憎んでいる。 そして、夫と久松家、兄と水野家がこんなことになって、於大の方の心が乱れないわけがなかった。長年同心してきた織田家からの仕打ちであり、家康もそれに結託していたのだ。だが、於大の方は家康を、母の情愛によって憎むことができず、それでも水野家のことは怨めしく――。 それにしても、この信俊の事件は今年の秋に起きたばかりである。つまり、つい数ヶ月前の出来事なのである。 信長が鷹狩りの場として吉良を選んだのは、於大の方の、いや、家康の本音を知るためなのに違いない。濃姫はそう睨んでいるのだ。 「大方殿は嫁家の本貫とご実家を失われたのですもの、織田家によって――」 濃姫はこの城を吹く風に身震いさせた。
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