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濃姫は信じていた。 女は男を支えるものだと。 男のために生きることが幸せなのだ。 人を幸せにすることで、人を笑顔にすることで、自分も幸せを感じられるもの。人のために何かしてあげる、そういう生き方が、幸せなのだと。 濃姫は両親を見て、そう思っていたし、両親にもそのように育てられた。 男は自分の夢ばかり。自分が自分がと生きる。そのぎらつく目のとらえるものが、手に入るように、女は陰で尽くすのである。 だが、そう信じて織田弾正忠家の信長のもとに嫁いできた時、信長はさもつまらなそうな顔をした。 女は実家のため、婚家のために尽くすのが常識。中でも濃姫は、実家に有利に進めるより、信長に心から尽くして、両家の関係好転に努めようというのだから、非常によくできた妻であったはず。 だが、そのありきたりが信長にはつまらなかった。 「むしろ、生家のために夫の寝首を掻き、家中を乱して争いを生じさせ、隙をついて織田家をぶん取るくらいの方が面白いわ。一生を最も身近な存在として過ごすのに、こんなつまらん相手ではなあ。どうにかならんのか?」
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