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濃姫が嫁いだばかりの頃の信長はそれこそ奇人だった。鬼か何かの眷属のようで、とうてい人とは思えなかった。うつけと言われていたが、そんな言葉で片付けるのは妥当ではないとさえ思われた。 濃姫だって、見るからに不潔そうな、こんな変なのと、一生家族として過ごすなんてと思ったものだ。どうにかして普通の格好をしてくれないものかと。 しかし、一向に改まる気配のない信長。 濃姫だって、自分は変われないと思った。 夫を自分好みに変えられないのは当然だ。自分も信長好みには変われないのだから。 政略結婚だった。信長が濃姫を粗略に扱えば、濃姫の実家との関係は悪くなる。だから、信長は一見濃姫を大事そうに扱っていた。 だが、そこに男女の恋情などありはしなかった。 それでも家族として、一生親しく過ごす相手。仲良く打ち解けなければ、やっていけない。妥協こそが政略結婚の成功の道である。 「私とて、婿殿が阿呆で、織田弾正忠家を奪えそうに見えたら、婿殿を殺せと父に言われて参りました。懐刀を渡されて――。父は尾張の港や沃土を欲しておりますから」
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