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熱田に萱津、枇杷島、津島、稲沢、果ては泊まりがけで常滑まで。尾張じゅうを――。 中でも信長が好きな村がある。彼が生まれた勝幡城の近くで、津島も近い。 そこには民しかいない。信長は民と友達だった。 「米の作り方もわからない者では、良い政はできませんものね。高貴な人ほど、民の暮らしを知らない」 村に連れて来られた濃姫も、信長の民と親しむ点は評価した。 地侍、土豪は普段は民と共に田畑を耕している。彼らは民側の人間だ。 しかし、守護大名ほどの大身になると、もう米の作り方どころか、飯の炊き方すら知らないのだ。 政は民のために為すべきである。 しかし、民の暮らしがわからぬ彼らは、民の味方である地位の下の者たちによって、下剋上された。 濃姫はそれを身近に見てきた。彼女の祖父と父は、まさしく下剋上によって阿呆な守護大名を追い出し、自らが美濃一国の主となったのだ。 信長が民に密着しようという姿勢は、濃姫には賛同できるものだった。 「政?そんなものは皆無だな。土豪だって、自分が富むために、押領した荘園や寺社の田畑の農民から搾取している」
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