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信長はせっかくの濃姫の賛同を否定する。
「だから、民も自分たちを守るために、したたかになった」
「はあ……?」
「この織田家とて、祖父も父もあちこち寺社から押領してきた。ここの田圃とて、そうよ」
「でも、民は殿を慕っております」
「おうよ。当家は押領した後、その地に政を欠かさないからな。俺が寺社や守護代どもから力ずくで守り、加地子名主や守護への段銭を納めさせておらんのだ。税が安けりゃ、民は友になる。だが、大抵の領主はそうでない。押領した後、政をせぬ。だから、民と敵になる。戦に行くためには銭が要るから、悪気はないながら、せに腹は代えられず、税を高くとることもあるんだろう。民が貧しくなれば、自分も貧しくなるのに、阿呆よ。武士は領地でなくて、商いで銭を集めるべきなのよ」
織田家は小領主に過ぎなかった。だが、驚くほど莫大な富を築いていた。一国の、いや数国の守護大名にも勝る財力がある。それは津島や熱田の港、知多を押さえているからだ。
その財力については、濃姫の父・斎藤道三もよく心得ている。
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