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デイルはフーンと鼻を鳴らせる。その様がさらにキールの頭に血をのぼらせる。
キールはスッと息を吸い込んだ。正に声を荒げようとした瞬間に、デイルは立ち上がる。隊の中で誰よりも図体がでかいのはデイルである。そのデイルが立ち上がり、冷ややかに一睨みした。
キールでなく、歌声の方向に。
キールらはそのデイルの雰囲気に飲み込まれる。
「戦火が間近まできていただろ。ヒャド国は両隣国に攻めいられる寸前であった。その戦火をヒャド国から一番遠いクツナ国に向けただけだ」
歌声はデイルの胸を締め付ける。
「姫を拐うなどと俺は宣言していない。ただ犠牲なく戦を回避したかった。……まさかこんなことになるとはな」
歌声は流れる。
惑いをもたない者などいないだろう。
「国の威信など、もうない。俺は卑怯者だ。クツナ国を犠牲にしたのだからな」
キールら精鋭隊は、小さく口を噛んだ。
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