328人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前たちとてわかっているのだろ? いいか、この競い合いに勝敗などない。参加していることがすでに敗しているんだ。国の威信どころか、誇りさえない! 女を拐って、勝利に酔いしれるなど!」
デイルはそう吐き捨てた。
「ですが! デイル様、せめて森をいち早く抜けることはさせてください。それさえも目指さねば、最初の宣言にも……この歌声に応えられないでしょう」
キールはそう放った。
デイルは瞳を閉じて歌声を聴いている。
「……ああ、そうだな」
デイルは目を開く。
「行くぞ。あの歌声にせめて応えようか」
キールら精鋭隊は頷いた。デイルを先頭に走り出す。惑わずに来い、そう歌声は放っている。デイルは唇を噛み締めながら走る。自らの発信がクツナ国を陥れた。その事実は変わらない。
『そうだ、せめてこの競い合いの行く末を見届けることが俺に出来ること』
デイルは一心に走り続けた。
.
最初のコメントを投稿しよう!