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「お前、裏からそっと入ってこなくとも。旦那様だって表から入ってくる様におっしっやってくれてるのに」
莎紗羅は籠を拾い母親にわたす。
「旅の汚れを先に落とそうと思って」
被っていた笠を外しながら勝手口へ向かう二人。
「春といっても井戸水は冷たいだろう。今湯桶を用意するから座ってな」
「うん」
頷き莎紗羅は道中合羽を外して笠と一緒に横に置く。
間口に座って草鞋を外そうとしたところに、母親が湯桶と手ぬぐいを持ってきて莎紗羅の前にしゃがみこむ。
「いいよ、お母さん、自分でするから」
母親の手から手拭いをとろうと手を伸ばす。
「なに言ってんだい、これく…らい」
母親の声が尻つぼみに小さくなる。
「お前、草鞋何足持って行ったんだい?」
足袋は擦り切れあちこち穴が開いている。草鞋もなんとか張り付いている程度で大して役に立ってなさそうだ。
母親は莎紗羅の足袋を脱がせてハッと息を飲む。
繰り返しできては潰れただろう豆の後。擦り傷切り傷が縦横無尽に走る。
長く歩いたせいか踵や幾らかの場所の皮は厚くなりガサガサに荒れていた。
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