第3章

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「足袋も草鞋も三足づつ用意したんだけどね」 莎紗羅は自分の足を母親に見せたくなかった。 足だけではない、今の自分の全てを見せたくなかった。 一年前 莎紗羅は幸せだった。 まだ13歳ではあったが町一番の器量良し、将来は別嬪間違いなしで嫁の貰い手は引く手数多だろうと言われた。 その度に父親-季伊國屋の一番頭、主人の季伊 上総の右腕として店を切り盛りするーは 「莎紗羅は嫁になどやらん!」と息巻いていた。 「なにを言ってんだか、お前さん」 母親は20年前季伊國屋に奥様が輿入れの際、奥様の実家からついてきた小間使。 今では季伊國屋の女中頭である。 「隆文は自分は志津という美人の嫁を貰っておいて、娘は嫁に出すのを嫌がるのか」 そう言いつつ、おかしそうに笑うのは、今年17歳になる雪也、季伊國屋の跡取り息子である。
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