未来への翼

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「まるで手負いの猫だな」 降参、とでも言うように手のひらを見せる 「今日のところは帰るよ。邪魔したね」 取り込んだままの洗濯物、食べ掛けのテーブル…散らかった室内が急に恥ずかしくなる 仕立ての良いスーツの背中がドアの向こうに消えると、逆立った毛穴から全身で息を吸いこんだ 彼が居なくなっただけで、急に部屋が広くなったような気がする 彼が現れるまで足りないものはなかったのに、彼が去った後、彼がいたスペースがぽっかり空いてしまった もういやだ。手に入らないものを求めて咽び泣くのも、諦めきれずに身悶えするのも …だけど、彼が見逃してくれるはずがなかった
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