328人が本棚に入れています
本棚に追加
「私、翼を産む前にもう一人子供を産んでいるの」
先輩が息を飲んだ
出産に立ち合った弘人に助産師が口を滑らせた後、彼は私を凍り付いた瞳でちらりと見たきり、もう二度と目を合わせてくれなかった
恐ろしいほどの沈黙が続く…
それを破ったのは絞り出すような先輩の声だった
「…紗栄子のせいか…」
「先輩、知ってたの…?」
紗栄子さんに宛がわれた『婚約者』は会うたびに私を抱いた
父が亡くなった後、妊娠に気づいた時にはもう中絶できない週数になっていた
「その子は?今…」
頼れる親もなく未成年だった私はソーシャルワーカーと相談して生まれたら施設に預けることにした
心労のせいか、私は妊婦とは思えないほど痩せていた
お腹の子は育ちが悪く、予定日が近くなったある日、とうとうその子はお腹の中で動かなくなった
最初のコメントを投稿しよう!