第1章

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「う~ん、どうしよかな?」 腕を組んで少し考えると、 「一度かけてごらんなせ」 老人は手のひらを さらに近づけてきた。 仕方なく老人の手のひらから めがねを取りかけて見ると、 今までにないフィット感があり、 まるで自分のために オーダーメイドして 作ったのではないかと 思うほどであった。 「じいちゃんこれいいわ、つけ心地最高」 「それはようござんす。」 めがねを外してよく見ると、 フレームに模様が入っており 高級感がただよっていた。 「じいちゃんこれいくらなの?」 めがねをじっと眺めながら 質問をすると 「100円でございます。」 「え?今なんて?」 「100円でございます。」 「100円!!」 あまりにも安価な値段に つい大声を出してしまった。 「どうなさいましょう?」 老人が聞いてきたが、 私は即答で、 「買うよ!買う買う」 と老人に伝えると 財布から100円を出して 老人に手渡した。 「まいどありがとうございます。」 老人は深々と頭を下げた。 「ありがとね。」 老人に礼を言って、るんるん気分で 来た道を帰ろうとしたとき後ろから 「お兄さん、 見えないものに 恐怖を感じるかもしれません。 でも見えないものも 恐怖を感じてることがありやす。 それを分かって、 どうか救ってやって下せい。」 まるで耳元で言われているみたいに 老人の声ははっきりと聞こえた。 「え?なに、じいさん?」 老人の方を振り返った。 「うん?じいさん?」 先ほどまで座っていた老人は もうそこにはいなかった。 「あれ?じいさん?」 辺りを見渡しても老人の姿はなく 朝市の賑わいだけが 冬の寒空の下に響いていた。
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