2

5/10

2157人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「あなた、どういうつもりなの!? 今日がリーグトップの、パソネックとの 大事な試合だってわかってたはずでしょう!」 開口一番、もの凄い剣幕で怒鳴られた。 いくら私でも、そのくらい知っている。 今期絶好調のレッドアローズが昨年の覇者、 パソネック電機パイレーツと、勝ち星の トップ争いをしてることくらい。 「亮輔はキッカーの水谷さんの次に、 得点力のある選手なの」 それも知ってる。 亮輔さんの活躍は、私の誇りだ。 「その彼が遅刻なんてつまらない理由で、 試合に出られなくなったら。どう責任を 取るつもり?」 返す言葉が無い。 亮輔さんにとって、ラグビーは仕事だ。 社名と、応援してくれるファンの期待。 それらを背負っている、プロのアスリート。 体調管理やその他多くのことに、日頃から 注意して、ベストの状態で試合に臨む。 それが彼に科せられた責任だ。 それなのに、ロクな食事も取らせずに、 遅刻寸前に到着なんて。 「アスリートの彼女として、もっと 自覚して欲しいわね」 キッと睨みつけられて、唇を噛む。 一分の隙も無く、綺麗にメイクを施した 明菜さん。 対して、私ときたら、ほとんどスッピンの 無防備な状態で。 ただでさえ負けているのに、こんな格好じゃ、 彼女の前に立つことすら恥ずかしい。 ましてや、言い返す事なんて…… 言いたいことを言い終えたのか、明菜さんは 背を向けて去って行った。 「キツ……」 でも、彼女の言うことは間違っていない。 「だめだ、もっとしっかりしなきゃ」 ドサリとシートに体を投げ出す。 知識のない分、他のことで亮輔さんの 支えになりたいと思っているのに。 「ごめんね、頼りない女で」 大きなため息が零れた。 下がり眉の情けない顔が、ルームミラーに 映っている。 「だめだめ、こんな顔してたら、亮さんに 心配かけちゃう」 なけなしの気力を奮い立たせ、 中断していたメイクを再開した。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2157人が本棚に入れています
本棚に追加