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_____ ____ 「グエッ。てめえ、俺を殺す気か!」 ウォーミングアップのランニング中、 背後から急にヘッドロックを仕掛けられ、 一瞬呼吸が止まった。 「ハン、おめえがニヤケた顔してっから、 気合い入れてやったんだ」 そう言って鼻を鳴らしたのは、同期で フォワードの澤。 こいつとは大学からずっと、一緒のチームで 苦楽を共にしてきた盟友だ。 100キロを超えるコイツに締められたら、 俺でも簡単に落とされちまうだろう。 「で、今日の遅刻の理由は?」 「俺のチョンボ。奈緒がセットしてた 目覚まし止めちまって」 「またかよ。おまえは本当に手癖が 悪いな。寮で同室だった時、何度か 俺もやられたぞ」 「そうだったか?」 「おまえ、どんだけ俺に迷惑かけたと 思ってんだ!」 「もう覚えてねえよ」 「チェッ。じゃあ過去の事は、今日の 奈緒ちゃんのスッピンでチャラにして やるよ。可愛いねえ、奈緒ちゃん。 一生懸命、手振っちゃって」 「おい……。見たのか奈緒の顔」 澤の一言が、怒りの導火線に火を点ける。 「見たくなくても見えるだろ。 なに怒ってんだよ」 「殺されたく無かったら忘れろ、全部」 「むちゃくちゃ言うなよ。そんな簡単に…… ウゲッ!」 奈緒のスッピンを見る男は俺だけだ。 あの滑らかな白い肌に触れるのも。 怒りに任せ、さっきこいつにやられたのと 同様に、ガッチリ首を極めた。 「離せ、わかったよ。 ったく、マジで殺されるわ」 「てめえが余計なことを言うからだ」 奈緒はチーム内で意外に人気がある。 俺をはじめ、荒くれ男共は、あいつの フンワリした優しい雰囲気に引かれる のだろうか。 俺が人前でも奈緒に纏わり付いているのは、 あいつが俺のものだと、アピールするため。 油断したら掻っ攫われる。 俺達は全員、それが生業だ。 「コラ!おまえ等真面目にやれ! 澤、フォワードはこっち来い。亮輔は 水谷の所に集合だ!」 「「へーい」」 澤と喋ってたら、松本さんに怒られた。 「おまえのせいだ」 「おまえだろ」 お互いにケリを喰らわせながら、 罪を擦り付け合う。
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