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「多分、この辺りよね」 明菜さんに入室を拒まれ、それでも どうしても彼の様子が知りたいわたしは、 外からのアプローチを試みた。 医務室は1階だから、窓から見えないかと 考えての行動だ。 「んー。カーテンで良く見えないなぁ。 こっちは……やった、いけるかも」 隣の窓に移ると、カーテンが少しばかり 開いていて、なんとか中が覗けそう。 背伸びして、目いっぱいガラスに顔を近づけた。 「あ、見える。亮輔さん!」 やや後ろ気味の角度だったけれど、 上手い具合にベッドの辺りが見える。 ヘッドボードから少しだけ、頭が見えている。 ということは、体が起こせるってことだ。 良かった。 かすり傷くらいはあるかも知れないけれど、 取りあえずは、深刻な状態では無さそうだ。 けれども、喜んだのも束の間。 スッと明菜さんが現れて、ベッドの上の 亮輔さんに近付いたかと思った次の瞬間、 彼女の顔が、亮輔さんの顔の辺りに 覆いかぶさった。 「え……」 ヘッドボードで見えないけれど、 角度からいって、2人はキスしている としか思えない。 どうして明菜さんを振り払わないの? 亮輔さんは私の恋人で、あなたのキスは 私だけのもののはず。 代表候補の話を私にしないのは、そういうこと? 見たくないのにその光景から、目を逸らす ことができない。 しばらくして明菜さんは、彼の傍を離れた。 口元に笑みを浮かべながら。 その笑みを見た瞬間、我に返った私は、 よろめきながら、窓から離れた。 _____ ____ 「なんだ、あんたかよ」 「なんだとは失礼ね。あなたの為に あちこち走り回っていたのよ」 奈緒かと思ったのに。 あんな形で退場した俺を、あいつはきっと、 心配しているだろう。 くそったれ。 あの野郎、今度対戦した時には、絶対に 一発ぶち込んでやる。 「お医者様は何て?」 「あんたには関係ねえよ。俺はベンチに戻る」 ベンチに姿を見せれば、奈緒も安心するはず。 頭を起こし、ベッドの端に体をずらした。 「関係無くないわよ。私はマネージャー なんだから、選手の状況をちゃんと把握 しなきゃいけないの」 胡散臭い笑みを浮かべ、ベッドに近寄って来る。
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