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「奈緒がここに来たのか!?」 「そうよ、亮輔さんが運ばれてすぐに、 駆け出して行ったわ。来てないの?」 芳恵ちゃんが眉をひそめる。 まさか、さっきの…… 「おい、さっき言ってた熱烈なファンって、 奈緒じゃねえのか?」 きつい口調で問うと、明菜が視線を揺らした。 「ちょっと、佐竹さん。あんた奈緒にまた、 余計なことを言ったんじゃないでしょうね?」 「またって、どういうことだ?」 「この人は今朝の遅刻の件で、奈緒を 責めたのよ。彼女失格だって言われて、 奈緒はすごく落ち込んでたの」 芳恵ちゃんの言葉に、ショックを隠せない。 さっきのタックルで受けた痛みなんて、 今のこの胸の痛みに比べものにならなかった。 俺の失敗で、奈緒がこんな女に責められ、 傷付いたなんて。 「あんた、奈緒ちゃんに何言ったんだよ。 遅刻の件は亮輔の責任だ。彼女はなにも 悪くねえよ」 「どうして責任が無いと言えるの? 一緒にいたなら彼女にも……」 「もういい! そんな事より、奈緒を探す方が先だ!」 「待って、私も行く!」 「俺も!」 「済まねえ。俺は外を見て来る。 何かわかったら、スマホに連絡頼む」 「「了解」」 「亮輔!あなたはまだ安静にしなきゃ!」 「そんなの構ってられるか」 追い縋る明菜を振り払い、部屋を飛び出す。 もう後ろなんて、見ちゃいなかった。 「どいて、女狐。邪魔すんじゃないわよ!」 「亮輔はあんたを視界にも入れてねえよ! わかったら、消えろ!」 背後で芳恵ちゃんと澤の、明菜を容赦無く 怒鳴りつける声が、次第に小さくなっていった。 奈緒、どこに行った? 俺がしっかりしてねえから、おまえを 無用に傷付けた。 頼むから、出てきてくれ。 今すぐこの胸に抱きしめて、傷付いたおまえを 慰めてやりたい。
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