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_____ ____ 「い……くしゅっ。はあ、何してんだろ、私……」 闇雲に走って行き着いたのは、 スタジアムの同じ敷地内にある、 そこそこ大きな公園だった。 ここも昨今の流行に遅れず、木々にはLED ライトが巻きつけられている。 夜には綺麗にライトアップされるのだろう。 まだ明かりの点らない木々を、ベンチから 見上げた。 「そういえば、今日じゃない!」 ちょうど一年前の今日だ。 亮輔さんと一緒にイベントに行ったのは。 私達の一年目の記念日。 幸せすぎて、こんな大事な日を 忘れていたなんて。 こんなだから、足元を掬われるのかな。 葉の落ちた木々の向こうに、どんよりと厚い、 灰色の雲が空に広がる。 足元の枯れ葉が、カサカサと風に攫われていく。 「寒……」 かじかむ手に、ハアっと息を吹きかけた。 昨日はこの手を亮輔さんが包んで、 息を吹きかけてくれたのに。 あんなにも優しく抱きしめてくれたのに。 あの優しさは嘘だった? 窓から覗き見た光景が、今も頭から離れない。 背後から吹き付ける北風が、傷心の私を 更に痛めつけてくる。 こんな時はいつものように…… 「って、無い! マフラー、どこかに落としちゃった……」 いつものように、顔を埋めようとして、 愛用のマフラーが無いことに気付く。 お気に入りだったのに。 落としたことに、全然気が付かなかった。 亮輔さんは私がいない事に気付いたかな? 今頃捜してくれているだろうか? それとも…… 最後まで考えるのが怖くて、ジャケットの 襟を立て、背中を小さく丸めた。 心配させたい訳じゃ無いけれど、戻って 徹底的に打ちのめされるのが怖い。 戻ることも、進むこともできずに、 途方に暮れた。 私はどうするべきだろう。 「亮輔……」 助けを求めるように、彼の名を呟く。 「呼んだか?」 言葉と共に、フワリと背中から抱きしめられた。
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