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「試合、しっかり見ておけよ。今日は
おまえが釘付けになるようなプレーを
見せてやる」
うっわーうっわー、なんて男前なセリフ!
クールなイケメンの彼が言うと、ちっとも
キザじゃ無い。
そしてその日、レッドアローズ4つの
トライの内、2トライを決めた亮輔さんは
有言実行、私の目を釘付けにした。
「亮輔さん、会えないかなぁ」
試合終了後、興奮冷めやらぬまま、関係者
出入り口付近に行ってみると、周辺は
選手の出待ちをする女の子で一杯で。
彼等の人気ぶりを、目の当たりにして
怖気づいてしまった。
「こんなにファンがいるんだ」
そうだよね。あんなにカッコイイんだもん。
にわかファンの私は恥ずかしくなって、
すごすごとその場を離れた。
意気消沈しながら、駐車場の外れのベンチに
座り、先ほど売店で買ったものを取り出し、
封を切る。
北風が頬をなぶって行く。
「亮輔さん……」
言葉と共に吐いた息が、茜の交じり始めた
空に、白く流れる。
「う~、さむっ……」
ブルッと肩を震わせ、幾重にも巻いた
マフラーに、鼻まで埋もれた。
今度会ったら言おう。
すごくカッコ良かったって。
これからずっと応援していくって。
それくらいなら、許されるよね。
「よっ、俺の雄姿、ちゃんと見てたか?」
そう決意する私の背後から、不意に低い声がした。
ポンと肩を叩かれ振り返ると、そこには
会いたかった亮輔さんが立っている。
降って湧いたチャンスなのに、言おうと
思っていた言葉が出て来ない。
「それ、何持ってんの?」
ポカンと彼を見上げる私の手の中の物に、
亮輔さんが興味を示した。
「あ、えっと、これは。試合を見てたら、
無性に食べたくなって」
彼の示したそれを、目の前に差し出した。
「アーモンドチョコレート……?」
「そうです」
「試合見てて、これが食いたくなったって?」
「はい。……食べます?」
「……ぶはっ!は、ははははははははは」
おずおずと訊ねると、彼は弾かれたように
笑い出した。
大爆笑する亮輔さん。
笑われているにも関わらず、
その笑顔に見惚れた。
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