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「亮さん、私、車で待ってる」 「なんで?一緒に行こうぜ」 亮さんに肩を抱かれる私を、明菜さんが 鋭い目で見ている。 彼女が亮輔さんを好きなのは、 とうに気付いていた。 あの視線に睨まれ続けるなんて、耐えられ そうにない。 「ううん、邪魔しちゃいけないし。 早く行ったら?待たせたらだめだよ」 「わかった。急いで戻るから、ちゃんと エアコン入れて、暖かくしとけよ」 念を押す彼に頷いて、小走りに車に向かった。 ____ ____ 「気ぃ使わなくて良いのに……」 走って行く、奈緒の後姿を見送る。 髪留めの飾りが、彼女の動きに合わせて 可愛らしく揺れていた。 車の列に隠れて見えなくなるまで、 その姿を追い続けた。 「なあに、そんなに彼女が気になるの?」 ようやく振り返って、クラブハウスに向かって 歩き始めた俺に、戸口で腕を組んだ佐竹明菜が バカにしたように言う。 「……」 「返事くらいしたら?」 挑戦的な態度で絡んでくる明菜を無視して、 ハウスに足を踏み入れてコーチの元へ急いだ。 「ずいぶん趣味が変わったのね。亮輔は 可愛いより、美人が好みかと思ってた」 「……」 「ねえ、亮輔。私……」 「うるせえな。もう用はねえだろ。 コーチの所くらい、1人で行ける。 ついて来んな」 纏わりつく明菜に我慢できなくなって、 きつい口調で言い、横を通り過ぎる。 明菜には最近こうやって、会う度に 纏わりつかれ、迷惑していた。 彼女は美人だし、ラグビーの知識も深い。 退屈しない相手だし、入部したての頃、 親しくしていたこともある。 何度も付き合いを申し込まれ、誘いを 受け入れようかと、迷った事さえあった。 そんな時に、聞いたある噂。 それは、彼女が他の数人の男にも、 手を出していると、いうもの。 すぐに申し出は断り、明菜とは距離を 置くようになった。
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